前歯が差し歯でも出っ歯の矯正はできる? 前歯を抜歯して治療した症例

2026.11.04

出っ歯の矯正を考えていても、「前歯に差し歯があるけれど治療できる?」「歯を抜くなら、どの歯を抜くの?」と気になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この記事でわかること

  • 前歯に差し歯があっても矯正できるのか
  • 出っ歯の矯正で、小臼歯ではなく前歯を抜くことがあるのはなぜか
  • 前歯を抜いた後、治療中の隙間や見た目はどうするのか
  • 矯正と被せ物の治療を、どのような順序で進めるのか

今回は、歯の根の状態などを考慮して治療済みの前歯を抜歯し、矯正後に被せ物を整えた20代女性の症例をご紹介します。

前歯に差し歯があっても矯正できる?

「差し歯」とは、むし歯などで失われた歯の形や機能を、人工の被せ物で補ったものです。残っているご自身の歯の状態に応じて、その歯を土台にする場合と、人工の土台を作ってから被せ物をする場合があります。

矯正できるかどうかは、被せ物の有無だけでは決まりません。歯の根や根の先、歯を支える骨・歯ぐき、残っている歯や被せ物の状態などを調べて判断します。

また、矯正で歯を動かすと、周りの歯との並び方やかみ合わせが変わります。そのため、状態によっては治療中に仮歯へ替え、歯の移動が終わってから被せ物を作り直すことがあります。今回も、この方法で治療を進めました。

治療前のお悩み(主訴) 

患者さまのお悩みは、「口が閉じにくい」「前歯の被せ物が気になる」というものでした。

初診時の状態(精密検査からわかったこと)

  • 上下顎前歯の著しい唇側傾斜・突出
  • 上下口唇の突出 
  • 上顎前歯部の既存補綴物 
  • 左上中切歯の根尖部の問題 

上下の前歯の傾きと口元の突出

上下の前歯が大きく前に傾き、歯並びにはでこぼこもみられました。上の前歯4本は、過去に神経の治療を受け、被せ物が入っている状態でした。

横顔のレントゲンを使って、あごの骨や歯の位置・傾きを調べる「セファロ分析」を行いました。上下のあごの骨の前後関係に大きなずれはありませんでしたが、上下の前歯はともに大きく前へ傾き、唇も前方に位置していました。

上下の前歯同士の前後の差(オーバージェット)は1.1mmと小さい値でしたが、これは前歯が突出していないという意味ではありません。上下の前歯が両方とも前へ傾いていたため、歯同士の前後の差は小さくなっていました。

前歯の被せ物と歯の根の状態

上の前歯4本には、神経の治療後の被せ物が入っていました。CT検査などで確認すると、左上の真ん中の前歯は、根の先に問題があり、周りの歯と比べて根の状態が良くありませんでした。

治療方針

矯正治療における抜歯の考え方

抜歯の目的:歯を適切な位置へ動かすためのスペースを作ること

矯正治療では、すべての患者さまに抜歯が必要なわけではありません。歯並びのでこぼこや前歯の突出の程度、歯を支える骨の状態、最終的なかみ合わせなどを確認し、抜歯の必要性を判断します。

歯を並べる場所が足りない場合や、前に出ている歯を後ろへ下げる必要がある場合には、抜歯によってスペースを確保することがあります。

小臼歯が抜歯に選ばれることが多い理由 

治療で抜歯が必要な場合、小臼歯(前から4番目や5番目の歯)が選択されることが多くあります。

小臼歯は前歯と奥歯の中間に位置しており、抜歯でできたスペースを、歯並びのガタガタ(叢生)の改善や、前方に突出した前歯を後ろに下げるために利用しやすいという特徴があります。 また、左右の小臼歯を抜歯することで、左右のバランスを保ちながら歯を動かすスペースを確保しやすくなります。 

歯には、それぞれ形や位置に応じた役割があります。小臼歯を抜く方法では、前歯や犬歯、大きな奥歯である大臼歯を残し、それぞれの役割を活かしながら歯並びとかみ合わせを整えやすいという利点があります。

ただし、必ず小臼歯を抜くわけではありません。歯の根や周りの骨・歯ぐき、過去に治療を受けた歯の状態なども確認し、「どの歯をできるだけ長く残していくか」という視点から、抜く歯を検討します。

今回の症例における抜歯について

この症例で抜歯した部位

  • 右上の真ん中から2番目の前歯(右上側切歯)
  • 左上の真ん中の前歯(左上中切歯)
  • 下の左右の前から4番目の歯(左右の第一小臼歯)

小臼歯ではなく上の前歯を抜歯した理由

左上の真ん中の前歯は、CT検査などで根の先に問題が見つかり、隣の歯よりも根の状態が良くありませんでした。そのため、長く残せるかという点に不安のあるこの歯を抜き、状態の良い歯を残す方針としました。

右上は、歯の形や矯正後の被せ物の治療を考慮し、真ん中から2番目の前歯を選びました。左右で異なる位置の歯を抜くため、残す歯の形や幅、最終的な見た目とかみ合わせも確認しています。量などを確認し、将来も見据えて判断します。

なお、神経の治療を受けているだけで抜歯するわけではありません。歯の根や周りの骨・歯ぐきなどの状態を調べ、将来も見据えて判断します。

 前歯を抜歯するメリットとデメリット

前歯を抜歯する場合には、次のようなメリットと注意点があります。

メリット

  • 歯並びを整えたい場所の近くにスペースを作れ、前歯を動かしやすくなる場合があります。
  • 奥歯の移動量を抑えられる場合があり、必要な歯の移動が少なくなれば、治療期間の短縮につながる可能性もあります。

デメリット・注意点

  • 前歯の本数や並ぶ歯の組み合わせが変わるため、歯の形・幅や歯ぐきの高さに配慮が必要です。
  • 歯を並べるだけでは、見た目やかみ合わせが整わず、歯の形の調整や被せ物の治療が必要になる場合があります。

これらは症例によって異なり、前歯を抜けば必ず治療期間が短くなるわけではありません。今回は歯の状態を踏まえて抜歯部位を選び、矯正後に被せ物で前歯の形を整える計画としました。

 使用する矯正装置

前歯の大きな傾きと、左右で位置の異なる抜歯スペースを調整するため、治療前半にはワイヤー矯正を用いる方針としました。その後は歯並びやかみ合わせの状態を確認し、マウスピース型矯正装置へ移行して、必要な歯の移動を続ける計画です。

装置は、必要な歯の動きに合わせて使い分けます。組み合わせる治療の特徴や注意点は、別記事で詳しくご紹介しています。

関連記事:ワイヤー矯正とマウスピース矯正装置を組み合わせる治療について 

被せ物の治療計画

前歯を抜くと、残る歯の組み合わせが変わります。歯には形や幅の違いがあるため、歯を並べるだけでは、見た目やかみ合わせのバランスが整わない場合があります。

そのため、歯の幅や形、歯ぐきの高さ、上下のかみ合わせまで考えて治療を計画します。今回も、矯正で歯の位置を整えた後に、被せ物で前歯の形を整える方針としました。

右上の真ん中の前歯と左上の真ん中から2番目の前歯は、矯正後に被せ物を作り直す予定としました。歯を動かすと歯並びやかみ合わせ、歯ぐきの位置が変わることがあるため、治療中は仮歯を使い、歯の移動が終わってから最終的な被せ物を作る計画です。

治療計画

仮歯への変更と抜歯後の見た目への配慮

ワイヤー矯正を始める前に、もともとの被せ物を仮歯へ替え、治療を進めやすい形に整えました。

前歯は笑ったときや会話の際に見えるため、抜歯後の隙間が心配な方もいらっしゃると思います。

今回は、前歯を抜いた部分に人工の歯を付けて、治療中の見た目に配慮しました。矯正によって隙間が閉じていくのに合わせて、人工の歯を少しずつ小さく調整しました。

隙間への対応は、歯の状態や使用する装置、治療の進め方によって異なります。

 ワイヤーからマウスピースへ

前歯の大きな傾きと、左右で位置の異なる抜歯スペースを調整するため、治療前半は約1年半、ワイヤー矯正を行いました。

その後、歯並びやかみ合わせの状態を確認し、マウスピース型矯正装置へ変更しました。この時点では、まだ抜歯した部分に隙間が残っていました。約1年間、追加のマウスピースによる調整も行いながら、残った隙間や歯の傾き、かみ合わせを整えました。

【ワイヤー矯正からマウスピース矯正装置(インビザライン)に移行した時の歯並び】

被せ物に合わせた歯の位置の調整

治療の終盤には、被せ物を担当する歯科医師と前歯の幅のバランスを確認しました。そのうえで、被せ物を作るために必要な隙間が残るよう、歯の位置を細かく調整しました。

今回のような治療では、すべての隙間を閉じることが目標ではありません。最終的な被せ物の大きさまで考えて、歯の位置を整えることが大切です。

【最終的な被せ物が入る前の歯並び】

治療結果

歯並びと口元の変化

治療後は、前に大きく傾いていた上下の前歯の位置と傾きが変わり、歯並びとかみ合わせが整いました。横から見た口元の出方にも変化がみられました。

最終的な被せ物

歯の移動が終わった後、確保していた隙間に合わせて最終的な被せ物を入れました。矯正で歯の位置を整え、被せ物で形を整える流れで、歯並びを仕上げています。

治療前後の検査値

横顔のレントゲンの分析でも、上下の前歯の前への傾きが小さくなったことを確認しました。

 Eラインは、鼻の先とあごの先を結んだ、唇の位置を見るための基準線です。表の数値は、この線より唇がどのくらい前方にあるかを示しています。

※分析値には、撮影時の頭の向きや測定する位置などによる誤差が含まれる場合があります。治療結果や治療期間には個人差があります。

治療期間・費用・リスク

※治療結果や治療期間には個人差があります。

よくある質問

 差し歯があれば必ず抜歯や作り直しが必要ですか?

必ず必要になるわけではありません。歯の根や被せ物、かみ合わせの状態、必要な歯の移動などを確認して判断します。今回のように仮歯へ替え、矯正後に作り直す場合もあります。

前歯の被せ物を替えるだけで出っ歯は治せますか?

被せ物で変えられるのは、主に歯の見える部分の形や向きです。歯の根の位置や歯並び、かみ合わせを変える矯正とは、対応できる範囲が異なります。今回は、上下の前歯の位置と傾きを整える必要があったため、矯正治療と被せ物の治療を組み合わせました。

前歯を抜くと治療期間は短くなりますか?

前歯を抜歯は矯正治療の期間短縮ではありません。そのため、必ず短くなるわけではありませんが、場合によっては治療期間が短くなることもあるかもしれません。

矯正治療で抜く歯は、歯並びや歯の根の状態、必要な歯の移動、最終的なかみ合わせなどを総合的に考えて選びます。

まとめ

前歯に差し歯があっても、矯正治療を検討できる場合があります。大切なのは、被せ物の見た目だけでなく、その下の歯の根や周りの組織まで調べ、残す歯と治療方法を考えることです。

今回の症例では、歯の状態を踏まえて前歯を抜歯し、矯正と被せ物の治療を組み合わせました。同じ出っ歯のお悩みでも、適した方法は患者さまによって異なります。

「前歯に差し歯があるけれど、出っ歯を治したい」「被せ物と歯並びを一緒に相談したい」という方は、初診相談でお聞かせください。

矢野晋也 歯学博士/SHIN矯正歯科院長

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