矯正治療は保険適用外?
矯正治療は、基本的に健康保険の適用外となるため自費診療(10割負担)となります。
ただし、一定の条件を満たす場合には、健康保険を利用して矯正治療を受けることも可能です。

矯正治療が保険適用
となる条件は?
一部の先天的な疾患に該当する場合には、保険を使って矯正治療を行うことが可能です。対象となるのは、次の4つの疾患です。
唇顎口蓋裂
胎児期に顔の癒合が不十分なことで、唇・顎・口蓋に裂が生じる先天異常です。日本では約500人に1人の割合でみられます。
この疾患では上顎の発育が不足しやすく、反対咬合や歯の欠損・叢生など見られる場合があります。
出生直後には形成外科での口唇・口蓋形成術が行われ、成長に合わせて言語治療や耳鼻科治療も必要となります。そのうえで、矯正治療ではかみ合わせや歯並びを整える役割を担います。
顎変形症
顎変形症は、上下の顎の成長バランスが崩れることで生じる疾患です。遺伝的要因や環境要因により顎の大きさや位置に異常が起こり、顔の非対称や突出、後退などを伴うことがあります。
症状としては、反対咬合、開咬、過蓋咬合などの不正咬合や咀嚼・発音のしにくさ、審美的な違和感がみられ、日常生活にも影響を及ぼします。
先天性部分無歯症
多数歯欠損(先天性部分無歯症)とは、生まれつき永久歯が6本以上欠如している状態を指します。原因は遺伝的要因が関与するとされ、家族内での発症も報告されています。
症状としては、乳歯が長期間残存したり、歯列に隙間や噛み合わせの不調和が生じたりすることが多く、咀嚼や発音、審美面に影響を及ぼします。
指定疾患(43疾患)
厚生労働大臣が定めた「指定疾患(43疾患)」とは、先天的に生じる重度かつ比較的まれな疾患群であり、身体の成長や発達、外見や機能に大きな影響を及ぼすことがあります。
代表例として、ダウン症候群、クルーゾン症候群、トリーチャーコリンズ症候群、ピエールロバン症候群、ゴールデンハー症候群などが含まれます。
保険適用の矯正が
受けられる医療機関は?
すべての医療機関で保険適用の矯正治療が受けられるわけではありません。
矯正歯科専門クリニックであっても、多くは「自立支援医療(育成・更生)医療機関」や「顎口腔機能診断施設」としての指定を受けていないのが実情です。指定を受けている医療機関はむしろ少数派であり、珍しい存在といえます。なお、指定状況は各自治体のホームページで確認できます。
保険適用かどうかを確認するには
実際に保険が使えるかどうかは、ご自身で判断するのは難しいものです。
顎変形症かどうかは専門的な診断が必要であり、指定自立支援医療機関や顎口腔機能診断施設で精密検査を受け、専門の医師が診断することで決まります。
受け口(反対咬合)の場合でも、骨格的な問題であれば保険適用となる可能性が高い一方、歯の傾きによる場合は保険の対象外です。
保険適用の可能性を含めて正しく判断するために、まずは初診相談を受診ください。

外科的矯正治療の流れ
術前矯正
外科的矯正治療では、顎骨を外科的に移動させた際に適した咬合関係が得られるよう、事前に歯列を整える必要があります。
術前矯正では主にブラケット装置を用い、歯並びを調整します。一般的には金属製ブラケットを使用しますが、審美性を考慮し透明ブラケットを選択することも可能です。

顎矯正手術(口腔外科手術)
手術は1〜2週間の入院が必要になります。顎骨を適切な位置に再配置した後、チタン製プレートとスクリューにより固定します。固定具は顎の安定性を確認した後、除去する場合とそのままにする場合があります。
術後は咬合安定のため、必要に応じてワイヤーや顎間ゴムを併用することがあります。骨格の改善に伴い、咬合機能の回復だけでなく顔貌の調和も期待されます。

術後矯正
外科手術終了後は、術前に整えた歯列をさらに調整し、正確な歯並びへと整えます。治療期間は概ね数か月から1年程度で、術後矯正を経て安定した咬合関係が完成します。

保定
矯正治療および顎矯正手術できれいに整った歯並びは、そのままでは後戻りのリスクが高いため、保定治療が不可欠です。
リテーナー(固定式または取り外し式)を一定期間使用し、歯列を長期的に安定させます。

よくある質問
保険が適用される矯正とされない矯正の違いは何ですか?
保険適用の矯正は機能改善を目的とするもので、審美目的のみの治療には適用されません。また、使用する装置や治療法に制限がある場合があります。
矯正治療の便宜抜歯も保険適用になりますか?
矯正治療で保険診療として行える抜歯には、かみ合わせや顎の機能に問題があり、治療上必要と判断された場合の抜歯(例:第一小臼歯など)が含まれます。
また、手術を伴う外科矯正に先立って行う抜歯や、埋伏歯の抜歯も、顎変形症などの保険適用条件を満たせば保険で対応可能です。
精密検査・診断も保険適用になりますか?
保険適用になります。自費の場合、精密検査(通常 3〜5万円前後)が、保険適用症例では 顎口腔機能診断料(1,000点=1万円)の3割負担 となります。
保険で矯正をした場合、治療費はどのくらいになりますか?
保険で矯正をすると、トータルで 自己負担はおおよそ60万円前後。手術を伴う場合は別途かかりますが、高額療養費制度が使えるため、実質負担はさらに抑えられることもあります。