
「下の歯がほとんど見えない」「かみ合わせが深くてあごが疲れる」──これらの症状がある方は、過蓋咬合(かがいこうごう)=かみ合わせが深い歯並びかもしれません。
過蓋咬合は見た目だけでなく、あごや歯ぐき、歯の摩耗などに影響が出やすい歯並びです。
ただし、「矯正は治療に時間がかかるのでは?」と不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
過蓋咬合には大きく分けて2種類あり、治療方法やかかる期間が異なります。
- 出っ歯タイプ(アングルⅡ級1類)
- 前歯が内側に傾いているタイプ(アングルⅡ級2類)
※アングルの分類についてはこちら
この記事では、過蓋咬合の種類ごとの特徴や、治療にかかる期間の目安、そしてできるだけ効率よく治療を進めるためのポイントを、症例とともにわかりやすく解説します。
目次
過蓋咬合とはどんな歯並び
過蓋咬合(かがいこうごう/ディープバイト)とは、奥歯を噛みしめたときに上の前歯が下の前歯を深く覆ってしまうかみ合わせのことです。
通常は、下の歯が4分の1くらい隠れている状態が正しい前歯のかみ合わせですが、過蓋咬合の場合、下の歯がほとんど見えません。

実は一言で「過蓋咬合」といっても、大きく2種類に分けられます。
出っ歯タイプの過蓋咬合(アングルⅡ級1類)
前歯が前方に突き出し気味で、唇が閉じにくい、口元の突出感といった特徴があります。お口周りの筋肉が弱かったり、舌を前に押し出す癖(舌突出癖)がある人に多い傾向です。

前歯が内側に向いているタイプの過蓋咬合(アングルⅡ級2類)
舌を横に押し当てる癖(側方舌癖)、お口周りの筋肉が硬い人に多く見られます。かみ締めが強く、前歯が内側に押されて、かみ合わせが深くなります。

どちらも「見た目」だけでなく、歯やあごへの負担が大きくなるため、治療が推奨されることの多い歯並びです。
過蓋咬合は通常の矯正より時間がかかるって本当?
一般的に、過蓋咬合は通常の矯正治療よりも時間がかかる傾向があります。
その理由は、歯を単純に並べるだけでなく、歯の高さやあごの位置関係を変えて、「かみ合わせの深さを浅くしていくための動き」が必要だからです。
矯正治療で歯を動かす方法には以下のようなものがあります。
①挺出(ていしゅつ):歯を引っ張り出して、かみ合わせを整える動き。

②圧下(あっか):歯を歯槽骨の中に沈める、歯肉の中へ押し込むようなイメージ。矯正治療における歯の移動パターンの中でも、歯根の移動量が多く時間がかかる動き。

③傾斜移動:歯の角度を変える動き。

過蓋咬合の場合、「前歯の圧下」や「奥歯の挺出」「前歯の傾斜移動」など上下の歯を立体的に動かす必要があります。そのため調整が複雑になり、これが治療期間が長めになる理由のひとつです。
過蓋咬合の矯正治療にかかる期間の目安は?
全体矯正でおよそ2〜3年が目安となることが多いです。しかし、どちらかというと、出っ歯タイプの過蓋咬合の方が上顎前歯の傾きを整える必要があるため、治療がやや長引く傾向があります。
そして、歯並びの状態や使用する装置(ワイヤー矯正・マウスピース矯正装置)によっても期間は変わります。実際に当院で治療された過蓋咬合の症例を紹介します。
◼︎出っ歯タイプの過蓋咬合(Ⅱ級1類)
口元の突出を改善のために抜歯する必要があります。前歯を内側へ傾斜、奥歯を挺出させ深いかみ合わせを改善していきます。しかし、面長(ハイアングル)の場合は極力奥歯は挺出させません。
舌癖を改善するために、お口周りのトレーニング(MFT(口腔筋機能療法))を一緒に行うこともあります。

【症例詳細】
- 主訴:出っ歯が気になる
- 診断名:上顎前突・過蓋咬合
- 初診時の年齢:23 歳
- 使用装置:ワイヤー矯正
- 抜歯部位:上顎左右第一小臼歯、下顎左右第二小臼歯
- 治療期間:3年
- 費用:¥730,000(税込¥803,000)
- リスク・副作用:痛み、歯根吸収、歯肉退縮、虫歯、後戻り
◼︎前歯が内側に入った過蓋咬合(Ⅱ級2類)
前歯の圧下と奥歯の挺出を組み合わせて治療を行います。歯を抜かずに治療できる症例もあります。

【症例詳細】
- 主訴:ガタガタが気になる
- 診断名:叢生・過蓋咬合
- 初診時年齢:16歳
- 使用装置:ワイヤー矯正からマウスピース矯正装置(インビザライン)
- 抜歯部位:上顎左右第一小臼歯
- 治療期間:2年3ヶ月
- 費用:¥925,000(税込¥1,017,000)
- リスク・副作用:痛み、歯根吸収、歯肉退縮、虫歯、後戻り
過蓋咬合を早く・確実に治すために大切なこと
治療をスムーズに進めるためには、患者さま自身の協力が欠かせません。
- マウスピース矯正装置の場合:装着時間(1日20時間以上)を守る、適合状態を確認する。
- ワイヤー矯正の場合:装置が外れないように硬い食べ物などに注意する
- 共通すること:定期的な通院を守り、歯磨きを丁寧に行う、補助装置(ゴム掛けなど)を指示通りに使用する
これらを意識することで、予定通りの期間で治療が進みやすくなります。加速装置と遠隔診療モニタリングシステムを併用すると、より治療を確実に進めることができます。
治療期間の不安、まずは初診相談で解消
歯並びを整えるだけでなくかみ合わせの改善が必要なため、期間が長めになりやすい過蓋咬合の矯正ですが、治療計画はお口の状態によって異なります。
「どれくらいで終わる?」「仕事や学校と両立できる?」という不安がある方は、まずは矯正専門医に実際に歯並びを見てもらいながら相談して、自分に合った期間と方法を確認してみましょう。
当院では初診相談(カウンセリング)で治療期間や費用の目安をご説明しています。お気軽にご相談ください。