外科矯正をしたくない方へ|手術を伴わない矯正治療の可能性

2026.08.30

「顎の手術が必要と言われたけれど、できれば手術は避けたい」
「入院や全身麻酔に不安がある」
「手術をしなければ、歯並びや口元は改善できないのだろうか」

外科矯正を提案され、このように悩んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

骨格や噛み合わせの状態によっては、外科矯正が適しているケースがあります。一方で、歯を安全に移動できる範囲や患者さんが希望する改善内容によっては、顎の手術を伴わない矯正治療を検討できる場合もあります。

当院では、外科矯正と手術を伴わない矯正治療の違い、それぞれで期待できる変化と限界をお伝えしたうえで、患者さんのご希望も踏まえて治療方法を検討します。

外科矯正以外の選択肢とは? 

顎の骨格的なずれがあっても、歯を安全に移動できる範囲がある場合は、顎の手術を行わず、歯の位置や傾きを調整して噛み合わせや口元の印象の改善を目指せることがあります。このような方法は「カモフラージュ治療」または「非外科的矯正治療」と呼ばれます。

ただし、手術を伴わない矯正治療では、顎の骨そのものを移動できません。外科矯正と同じ変化を得られる治療ではなく、骨格のずれが大きい場合や顎の左右差が目立つ場合などは、外科矯正の方が適していることがあります。

大切なのは、それぞれの治療で「どこまで改善できるのか」「何が改善できないのか」を理解したうえで選択することです。

※手術を伴わない矯正治療が適応できるかは、レントゲン撮影などを含む精密検査と診断が必要です。すべての方が手術を避けられるわけではありません。

外科矯正の対象となる症状や治療の流れ、期間、費用については、外科矯正の詳しいご案内をご覧ください。

上下の歯列の前後関係を整える装置(カリエール)とは

当院では、症例に応じて、上下の歯列の前後関係を整える装置(カリエール)を使用した治療を検討しています。

この装置は、歯の表面に取り付けるバー状の装置です。反対側の歯列に装着した装置と顎間ゴムでつなぎ、上下の奥歯の前後関係を整えます。

顎間ゴムで上下の歯列の前後関係を整えます

カリエールの特徴

  • 矯正治療の比較的初期に使用する
  • 上下の歯列の前後関係を先に整える
  • ワイヤー矯正やマウスピース型矯正装置と組み合わせる
  • 口を開けたときに目立ちにくい
  • 患者さん自身による顎間ゴムの装着が必要

この装置だけで、すべての歯並びや骨格の問題を改善できるわけではありません。また、使用できるかどうかは、噛み合わせ、骨格、歯根の位置、顎の骨や歯ぐきの状態などによって異なります。

症状に合わせた装置の使い方

受け口・反対咬合・下顎前突の場合

反対咬合とは、噛んだときに下の前歯が上の前歯より前に出ている状態です。下顎前突とも呼ばれます。

反対咬合には、歯の傾きや位置が主な原因となっているものと、上下の顎の大きさや位置関係が主な原因となっているものがあります。骨格的なずれが大きい場合は外科矯正が適していることがありますが、歯を移動できる余地がある場合は、カリエールなどを用いて手術を伴わずに噛み合わせの改善を目指せることがあります。

ただし、この治療は下顎の骨そのものを後方へ移動させるものではありません。歯列の前後関係を整えることで、反対咬合や口元の印象の改善を目指します。

反対咬合・下顎前突に対しては、主に下顎の犬歯から奥歯に、反対咬合用の装置(カリエール Motion 3D Class III)を取り付けます。まず前後的なずれの改善を図り、その後、ワイヤー矯正またはマウスピース型矯正装置で歯並びや噛み合わせを細かく整えます。

出っ歯・上顎前突の場合

出っ歯・上顎前突では、上の歯列が下の歯列より前方に位置している場合があります。このような症例でも、上下の歯列の前後関係を整える目的でClass II用のカリエールを使用することがあります。

適応は骨格や歯の位置、口元の状態によって異なり、抜歯を伴う矯正治療やほかの装置が適している場合もあります。

【症例紹介】手術を伴わず、上下の歯列の前後関係を整える装置(カリエール)で反対咬合を改善した2症例ース

ここでは、上下の歯列の前後関係を整える装置(カリエール)を使用し、外科手術を行わずに反対咬合を改善した2つの症例をご紹介します。同じ反対咬合でも、骨格や歯を支える骨の状態、治療中の経過はそれぞれ異なります。

【症例1】下の前歯を支える骨の薄さに配慮し、慎重に治療を進めた症例

初診時の歯並び

この患者さんは、下の前歯を支えるあごの骨が薄く、歯を安全に動かせる範囲が限られていたため、外科手術を併用した矯正治療が検討される症例でした。

患者さんは可能であれば手術を伴わない治療を希望されていたため、歯ぐきや歯を支える骨へのリスクをご説明したうえで、治療中の状態を慎重に確認しながら矯正治療を進めました。

※骨の厚みや歯根の位置については、掲載しているレントゲン画像だけでなく、CT画像を用いて立体的に確認・診断しています。

治療計画

上下左右の親知らずを抜歯後、治療初期にClass III用のカリエールを装着し、顎間ゴムを併用して上下の歯列の前後関係を整えました。

その後、ワイヤー矯正によって歯並びと噛み合わせを調整しました。

治療による変化

治療中は歯ぐきや歯を支える骨の状態を確認しながら進めましたが、当初懸念されていた大きな問題は認められず、比較的スムーズに反対咬合を改善できました。

症例詳細

主訴:受け口が気になる
診断名:開咬・反対咬合
初診時年齢:25歳
使用装置:Class III用のカリエール・表側ワイヤー矯正
抜歯部位:下顎左右第三大臼歯
治療期間:1年10ヶ月
費用:¥810,000(税込¥891,000)
リスクと副作用:痛み、歯根吸収、歯肉退縮、虫歯、後戻り

※治療結果や治療期間には個人差があります。

【症例2】治療途中の一時的な開咬を経て、反対咬合を改善した症例

初診時の歯並び

初診時の状態からは、外科手術を併用した矯正治療が必要となる可能性も考えられました。しかし、精密検査によって骨格や歯の位置、歯を動かせる範囲を詳しく分析した結果、手術を伴わない矯正治療で改善を目指せると診断しました。

治療計画

歯を抜かずに、治療初期の約半年間、下顎にClass III用のカリエールを装着、同時にマウスピース矯正装置(インビザライン)で歯列全体の治療を行いました。

 カリエール装着

カリエールは、上下の歯にゴム(顎間ゴム)をかけて歯列の前後関係を整えます。そのゴムで引っ張る力の影響により、下あごの左右の犬歯が、歯茎から伸び出て歯が長くなる(挺出)ことがあります。

その結果、治療途中に犬歯が反対の歯に先に当たり、一時的に前歯が噛み合わない状態(開咬)になる場合があります。

治療中は、かみ合わせを確認しながら、必要に応じて装置やゴムの掛け方を調整します。

治療開始から7ヶ月後

カリエールは約5ヶ間装着し、その後はマウスピース矯正装置(インビザライン)だけで歯の位置と噛み合わせを改善していきました。

治療開始から1年7ヶ月後

現在、この患者さんは最終的な調整を行っており、矯正治療は終わっていませんが、反対咬合と開咬だったかみ合わせは大きく改善されました。

症例詳細

主訴:受け口とガタガタが気になる
診断名:反対咬合
初診時年齢:25歳
使用装置:Class III用のカリエール・マウスピース矯正装置(インビザライン)
抜歯部位:なし
治療期間:現在も治療継続中
費用:¥950,000 (税込¥1,045,000)
リスクと副作用:痛み、歯根吸収、歯肉退縮、虫歯、後戻り

※治療結果や治療期間には個人差があります。

 

上下の歯列の前後関係を整える装置(カリエール)を使った治療の流れ 

 1.初診相談

現在の歯並びや噛み合わせ、外科矯正について説明を受けた経緯、治療に対するご希望や不安を伺います。

2.精密検査・診断

口腔内写真、顔貌写真、歯型、レントゲンなどから、上下の顎の位置関係、歯の傾き、歯根や顎の骨の状態を確認します。

3.治療方法の比較・説明

外科矯正が適しているか、手術を伴わない治療を検討できるか、それぞれで期待できる改善と限界をご説明します。

4.カリエールによる前後関係の改善

適応となる場合はカリエールを装着し、顎間ゴムを使用します。顎間ゴムの使用時間は治療計画に沿ってお守りいただく必要があります。

5.歯並び・噛み合わせの仕上げ

ワイヤー矯正またはマウスピース型矯正装置を使用し、歯並びと噛み合わせを細かく整えます。

6.保定

歯並びを整えた後は、後戻りを防ぐためにリテーナーを使用します。

よくあるご質問

 外科矯正が必要と言われましたが、必ず手術をしなければなりませんか?

骨格や噛み合わせの状態によっては外科矯正が適していますが、患者さんが希望する改善内容や、歯を安全に移動できる範囲によっては、手術を伴わない治療を検討できる場合があります。精密検査を行わなければ判断できませんので、まずはご相談ください。

カリエールを使えば、外科矯正を避けられますか?

カリエールを使用すれば、必ず手術を避けられるわけではありません。カリエールは歯列の前後関係を整えるための装置で、顎の骨そのものを動かす装置ではないためです。骨格的なずれが大きい場合などは、外科矯正が適していることがあります。

カリエールだけで矯正治療は終わりますか?

通常は、カリエールで上下の歯列の前後関係を整えた後、ワイヤー矯正やマウスピース型矯正装置を使って歯並びと噛み合わせを仕上げます。

顎間ゴムを使わないと治療できませんか?

カリエールによる治療では、患者さん自身による顎間ゴムの装着が重要です。指示された時間どおりに使用できない場合、予定した歯の移動が得られず、治療期間や治療計画に影響することがあります。

外科矯正をするか迷っている方へ 

外科矯正には、顎の骨格から噛み合わせや顔貌を改善できるという大きな利点があります。一方、入院や全身麻酔への不安から、手術以外の可能性を知りたいと考える方もいらっしゃいます。

当院では、手術を避けることだけを目的に、無理な歯の移動を行うことはありません。精密検査をもとに、外科矯正と手術を伴わない矯正治療の双方について、期待できる変化、限界、リスクをご説明します。

「外科矯正以外の方法があるか知りたい」「手術なしではどこまで改善できるのか聞いてみたい」という方は、一度ご相談ください。

 

矢野晋也 歯学博士/SHIN矯正歯科院長

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