歯列矯正中の患者さまから「口臭が気になる」「以前よりも口の臭いが強くなった」「歯磨きしても治らない…」という相談を受けることがあります。
そこで今回は、口臭の発生する要因や歯列矯正との関係、その予防方法などをご紹介します。
目次
口が臭いと感じるのはなぜ?
口臭を感じる時は多岐に渡りますが、日本口腔外科学会によると大きく分けて5つの種類があるといいます。
-生理的口臭
起床直後、空腹時は唾液の分泌が減少し、細菌が増殖して口臭の原因物質である揮発性硫黄化合物(VSC)がたくさん作られるため強めになります。
その他、女性の生理・妊娠時などホルモンバランス変化に伴う口臭、乳幼児期、学童期、思春期、成人期、老齢期、それぞれの年代固有の臭気(加齢臭)もあります。
-飲食物・嗜好品による口臭
ニンニク、ネギ、酒、タバコ等による口臭は一時的なものです。
-病的口臭
鼻やのどの病気、呼吸器系など内臓が原因で起こる場合もありますが、歯周病、むし歯、歯垢、歯石、義歯(入れ歯)の清掃不良など90%以上は口の中にその原因があると言われています。
特に「舌苔(ぜったい)」と呼ばれる、舌に白い苔のような物がついていると、強い口臭の原因になります。
-ストレスによる口臭
緊張時なども、ストレスにより唾液の量が少なくなるため口が臭くなる可能性が高いです。
-心理的口臭
自臭症とも呼ばれ本当は臭わないのに、自分自身で口臭が強いと思い込んでいる状態を言います。
一番臭いが強く出るのが、朝の起床時の「生理的口臭」、寝ている間に口内細菌が増殖するためです。
矯正治療中での口臭の要因としては、やはり、口の中に矯正装置をつけた状態であるため、歯磨きがしづらいことによる「病的口臭」によるものが多いです。
自分の口臭を確認する方法
では、自分自身の口臭が気になるとき、どうやって確認をすれば良いでしょうか。素朴ではありますが、簡単な方法をご紹介いたします。
-唾液でチェック
手をきれいに洗って清潔な状態にした後、舌の上や歯と歯ぐきの溝部分などを指で触ってみて、付いた唾液の匂いを嗅いでみてください。唾液が臭いと、それが乾燥して口臭の原因になります。
出先でも簡単にできる口臭チェックの手段です。
-息でチェック
清潔なコップやビニール袋を用意し、自分の息を吹き込んで貯めた後、密閉してから臭いを嗅いでみてください。息が匂った場合は口臭がある、ということになります。しかし、朝起きた直後は誰でも「生理的口臭」が強めに出ますので、日常の口臭とは区別してください。
-口臭チェッカーでチェック
家族や知り合いから「臭い…」と指摘されても、自分自身では実感のわかない方もいらっしゃると思います。口と鼻はのどの奥で繋がっているので、口の中のニオイ(口臭)は、常に嗅いでいることになります。 そのため嗅覚が口のニオイに順応してしまい、自分では自分の口臭が分かりにくくなるのです。
口臭を調べるためのアイテムとして、口臭チェッカー(ブレスチェッカー)というものがあります。
歯科医院で使用しているものと精度は違いますが、市販の口臭チェッカーもあります。客観的に数値が出ますので、他のチェック方法で判断がつかないような方にはおすすめです。
強い口臭は対人関係に悪影響を及ぼすこともあります。口が臭いけど自分ではわからない方は上記の方法で客観的に調べてみるのも良いかもしれません。
歯磨きしても臭いのはなぜ
自分自身ではしっかり歯磨きしているつもりでも、口臭が気になるという方は、口腔ケアを行なっていますか?「歯磨き」だけではケアとしては残念ながら不十分です。
-歯間のケアをしていない
「歯ブラシを定期的に交換し、毎食後しっかり磨いている!」口内ケア意識が高くマメであっても、意外と歯間のケアをしていない方が見受けられます。歯の間の汚れは歯ブラシだけでは落としきれません。定期的にデンタルフロスで歯間のケアをするようにしましょう。
-舌苔がついている
舌には「舌苔」というよごれがこびりついてしまうことがあり、舌苔を取り除くだけで口臭が改善する場合もあります。
舌苔は食べかすやお口の中の古い細胞がこびりついたものといわれていますが、細菌の好物であるため、舌苔を放置すると臭いが酷くなることも考えられます。
舌は粘膜であり「味蕾」という味を感じるための組織もあるためデリケートです。歯ブラシでもよいのですが、専用のクリーナーなどを使って優しく磨いてください。
-口が乾いている
口呼吸などで口が開いていると、口の中が乾燥し、唾液の量が減って臭いやすくなります。対策としては殺菌作用のある緑茶を飲んだりガムをかんだりすると効果があります。
-胃からくる口臭
胃の調子が悪くなると、食べ物が消化されにくくなって、胃で発酵が起こります。その発酵臭が肺に入って、息が臭くなります。
胃に異常があると、“臭い息”が出やすくなります。
また、胃の内容物がこみ上げてくる「逆流性食道炎」の場合、胃液が食道に上がってくることで、酸っぱい臭いになります。
・ゲップが出る
・胸焼けを感じる
・咳が出る
・酸っぱい液体がせり上がってくる感じがする
・喉に違和感がある
上記症状があり、歯磨きやフロスなどこまめにしても状況が改善されない場合は、「逆流性食道炎」の可能性もあります。気になる方は専門医への受診をおすすめします。
また、胃腸がトラブルを起こすと食べたものが消化不良のため体内に長くとどまることになり、やがて腸内で異常発酵しはじめます。
異常発酵の過程でうまれた悪臭の成分が、腸内環境が悪化して悪玉菌が増加すると、より悪臭成分が発生します。
その悪臭成分が腸で吸収されて血流に溶け込み、体をめぐり肺に辿りつき、息として口から外に出ていくため口臭となります。
この口臭が、胃腸の不調により体内で発生した悪臭が口臭となるメカニズムです。
腸内環境のバランスが乱れ悪玉菌が増えると、さらに悪臭成分が増えることになります。
暴飲暴食を避け、適度に運動し、発酵食品・食物繊維など、善玉菌が好む食品を意識的に摂り腸内環境を整えると改善されていきます。
歯並びと口臭の関係は
歯並びの悪さと口臭も強い関連性があります。
-ガタガタの歯並び
歯並びが悪いということは、頑張って歯磨きをしても、重なり合った歯の隙間に汚れがたまりやすく、そこから口腔内の環境の悪化につながり、細菌が増え、悪臭の要因となります。
また、噛み合わせも悪い場合も、それが口臭発生の原因になることがあります。
-出っ歯口臭
出っ歯の方はわずかではあっても「常に口が開いている」状態になる方がほとんどです。
基本的に呼吸は鼻で行うものですが、口が閉じきらない状態だと口内の乾燥が進み、それが口臭発生のもととなってしまいます。
-受け口口臭
受け口は、反対咬合と呼ばれ上下のかみ合わせが逆の歯並びです。
このかみ合わせは、食べ物をかみづらくなるため、唾液の分泌量が低下し、自然と口内は乾燥しがちになってしまいます。
出っ歯の場合と同じように、口臭発生のもととなってしまいます。
-開咬(かいこう)口臭
開咬の方も唇が閉じにくいため、ドライマウス(口のなかが常に乾燥した状態)になりやすく、唾液の分泌量が減少し、口臭発生のもととなってしまいます。
歯列矯正をすると口が臭くなる?
矯正治療中は様々な要因から口臭が気になるという方もいらっしゃいます。矯正治療中に口臭が気になる要因をご紹介します。
-装置についた汚れ
ワイヤーであれマウスピースであれ、口内で利用しているため、歯と同様に汚れます。しっかりケアしたつもりであっても、装置の隙間に食べ物が残っていたため、そこから細菌が繁殖し、口臭発生のもとにつながることになります。
マウスピースの洗浄方法についてはこちら
-歯磨きがうまくできていない
装置があることで、装置のまわりや歯の表面との境目には汚れがたまりやすく、そして歯ブラシの毛先も届きにくいため、なんとなく磨いているだけでは汚れがしっかりと落ちません。特にワイヤー装置の場合は装置の下まで磨きにくいので、磨き残しができやすくなります。
マウスピースであれば、歯磨きの際外すことができるので、歯磨きがしやすいです。
-口が乾いている
口の中の装置が気になってつい口を開けてしまったり、装置があることで口自体が閉じにくくなり、乾燥しやすくなり、口臭発生のもとににつながりやすくなります。
矯正治療中の口臭はどうすれば治りますか?
口臭を防ぐ目的もあって歯列矯正をしているのに、治療中の口が臭いのは本末転倒ですよね。
矯正治療中の口臭対策方法についてお伝えします。
-こまめな口腔ケア
何かを飲んだり食べたりしたあとには、かならずこまめに歯ブラシなどを利用して汚れを落とすようにしましょう。矯正装置が口内にあるため、少しの汚れでも臭いのもととなる細菌が繁殖原因や虫歯のもとになりやすい状態です。また、まめにケアすることで歯の着色汚れも抑えることができます。
【矯正治療中のセルフメンテナンス】歯の磨き残しを防ぐ3つの方法
-デンタルフロスや歯間ブラシなど、口腔ケア用品を活用する
自分なりに、どんなに口内ケアを頑張っていても、どうしてもブラシの毛先が届かない場所や磨きにくい場所はあります。そのような箇所にはデンタルフロスや歯間ブラシなどを活用し、磨き残しの無いように努めましょう。舌苔が強い人は、さらに舌もブラッシングしてにおいのもとを断ちましょう。
また、外出先などで食後すぐに歯磨きができない場合は、洗口液を利用するのもおすすめです。外出先だけでなく、歯磨きの後にも洗口液でうがいをするのも効果的です。
矯正中の外出時に便利な歯磨きグッズはこちら
-口の中の乾燥を防ぐ
口内の乾燥は臭いのもとにつながります。まめに水やお茶などを飲んだり、できるだけ口を閉じて鼻で呼吸するように気を付けましょう。
-歯科医院でクリーニングしてもらう
矯正治療中の口臭予防は自宅でお手入れが大前提ですが、どうしても磨き残しがあるなど、セルフケアでは限界があるのも確かです。
矯正中は歯科医院に定期的に通院します。その際に歯のクリーニングを行ってもらうのもおすすめです。
クリニックの専門的な機械や薬品を利用するため、歯と歯の間だけでなく、歯と歯茎の間や歯と矯正器具の間、矯正装置の洗浄など、セルフケアできないできないところでもしっかり汚れを落とせます。
また、セルフケアに役立つ情報が得られたり、歯科のみで販売されている歯磨き粉や歯ブラシなどを手に入れることもできます。
矯正治療中の歯のクリー二ングについてはこちら
子どもの口臭が臭い
矯正治療中のお子様の口臭のご相談を受けることもあります。
起床直後の臭いに関しては、唾液が少ないと大人も臭いますので、そのあとの歯磨きなどで臭いが消えるならば問題はありません。
しかし、ずっと口臭が気になる状態であるならば、いくつかの原因があります。まず疑われる原因は以下の通りです。
-お口のケア不足・むし歯
矯正治療中は歯磨きが上手にできないと、口の中に食べカスが残ります。その食べカスが細菌の繁殖を促進し、口臭の原因となります。
また、食べカスが口の中に残っていると、口腔内のpH(酸)が変化しむし歯の原因となり、これも口臭の原因となります。
お子様自身のケアが怪しい場合はご家族が仕上げチェックをしたり、歯のケア用品を増やしてみましょう。
-口呼吸・ドライマウス
口呼吸は、鼻から息を吸う代わりに口から息を吸うことを指します。口呼吸をすると、口の中が乾燥しやすくなります。口の中が乾燥すると、唾液の量が減り、口の中の細菌が増殖しやすくなります。この細菌が増えると、口臭の原因となります。
また、口呼吸をすると、鼻腔での濾過や加湿が十分に行われず、細菌や異物が喉や口の中に直接入りやすくなります。これも口臭を引き起こす可能性があります。
さらに、口呼吸を続けると、口の中やのどが乾燥するため、口の中の細菌が酸を作りやすくなります。この酸は、歯や歯茎を傷つけ、口臭を引き起こす原因になります。
そのため、口呼吸を改善し、鼻で呼吸できるようになることが重要です。
鼻呼吸を習慣づけるためには、鼻詰まりの原因を取り除いたり、口呼吸が慢性的な問題である場合は、口周りの筋肉を強化して鼻呼吸を促進するための訓練を行ったりすることが役立ちます。
–消化器系の不調など
まれではありますが、便秘など胃腸の病気、鼻や喉の病気も炎症や潰瘍に伴う嫌な臭いの原因に。鼻詰まりの原因を取り除いたり、専門家に相談して適切な対処方法を見つけることが重要です。
口臭が全くない人はいないため、気にし過ぎるのは良くありませんが、口臭トラブルは防ぎようがないものではなく、ちょっとした心がけで口腔内を清潔に保てるように気をつけることで口臭予防になるでしょう。
歯列矯正を検討している方は口臭トラブルに見舞われないためにも、歯並びを改善し、口内ケアをしっかりと意識しましょう。
もし当院で矯正治療中で、口臭が気になった場合は来院時にお気軽にご相談ください。