下顎が前に突き出ている状態、いわゆる「しゃくれ」を改善する方法として歯列矯正は効果があるのでしょうか。しゃくれの原因を踏まえつつ、しゃくれを改善する方法をお伝えします。

しゃくれの原因と症状

しゃくれは、反対咬合(受け口)と同様に下顎が前に突き出ている状態です。

違いとしては、しゃくれの主なのは骨格的な問題で、反対咬合と違い下顎の歯列が上顎の歯列より前に出ていないケースもあります。

医学的には「下顎前突(かがくぜんとつ)」と言います。見た目としては、口を閉じたときに下顎が前方に出ている印象を与えます。

-しゃくれの原因

先天的な骨格的な成長の問題や遺伝、あるいは後天的なもの、幼少期の悪習癖(指しゃぶりや舌癖)があります。

-しゃくれの症状

①顔貌の特徴

下顎が突出しているため、美しい横顔の基準(Eライン)から下唇や顎が大きくずれる場合があり、その外見的な特徴から他人に無表情の時でも怒ったような印象を与えてしまっているかもしれません。

②かみ合わせの特徴

上顎より下顎が前方にある「反対咬合」となり、食事の際に食べ物をかみ切ることが難しい。また、特定の発音(サ行、タ行など)がしづらいのではないでしょうか。 

  • 〈画像の症例詳細
  • 主訴:咬み合わせが反対
  • 診断名:反対咬合
  • 初診時年齢・性別:25歳・男性
  • 治療装置:マウスピース型矯正装置(インビザライン)
  • 抜歯箇所:なし
  • 治療期間:1年5ヶ月
  • 費用:90万円(税別)
  • リスクと副作用:痛み、歯根吸収、歯肉退縮、虫歯、後戻り

しゃくれを治すための矯正治療の方法

-子どもの矯正治療

成長期の子どもであれば、機能的矯正装置を用いて顎の成長をコントロールする治療法が適しています。この方法では、舌の使い方や位置を改善することも行えます。

そのため、矯正治療を行いながら、舌のトレーニングを行なっていきます。

-大人の矯正治療(成人矯正)

しゃくれの度合いが比較的軽度であり、上顎の歯が内側に倒れている場合、ワイヤー矯正、マウスピース矯正装置(インビザラインなど)にて改善することが可能です。

しゃくれの度合いが重症の場合でも、奥に歯を移動させるスペースがあれば、下顎の歯列を後方(遠心移動)にすることにより改善できる可能性があります。

まず、カリエールモーション歯科矯正用アンカースクリューなどの補助装置を用いて下顎の歯列を後ろに移動させます。その後、ワイヤーまたはマウスピース矯正装置(インビザラインなど)にて改善していきます。

-外科的矯正治療

骨格的なズレが大きすぎる場合は、外科手術(骨切り術)が必要になります。先ほどの述べた大人の矯正治療(術前矯正治療といいます)を先に行い、その後に外科手術をして改善します。

外科的矯正治療を行う場合、外科手術(骨切り術)を行う前はしゃくれが悪化したように見えます。その後、外科手術後には改善されます。

手術が必要かどうかは、セファロやCT画像による分析を行なって判断します。矯正専門医院にて相談してください。

歯列矯正以外のしゃくれ治療法

-セラミック治療

しゃくれの度合いが軽度の場合、セラミック治療により改善できます。

上顎、下顎ともに歯を削りセラミックの人工歯により歯の形や角度を変えることで見た目を改善する方法です。

-美容外科手術

オトガイ形成術という顎先を切除し、ずらすことにより顔貌を改善する方法です。

この方法は、歯並びは治さないためかみ合わせ等はそのままとなります。

矯正治療をするリスクと矯正治療しないままでいるリスク

-矯正治療中のリスク

①矯正装置による不快感、痛み

装置を装着した直後は、違和感や痛み等があります。とはいえ、数日(2~3日)長くても1~2 週間で慣れることがほとんどです。

②むし歯や歯周病のリスク

ワイヤー矯正治療中は、装置が付いているため歯が磨きにくくなります。 むし歯や歯周病のリスクが高まりますので、丁寧に磨いたり、定期的なメンテナンスを受けたりすることが重要です。

また、歯が動くと隠れていたむし歯が見えるようになることもあります。

③歯根吸収や歯肉退縮のリスク

歯を動かすことにより歯根が吸収して短くなることがあります。また、歯ぐきがやせて下がることがあります。

④治療期間延長の可能性

マウスピース矯正装置のように患者さま協力度が大きく関わる治療の場合、装置の使用状況によっては治療期間の延長、および治療結果が制限される可能性があります。

詳しくは日本矯正歯科学会ホームページをご覧ください。

-矯正治療しないままでいるリスク

しゃくれの症状で述べた、顔貌のコンプレックスや不正咬合(悪いかみ合わせ)をそのままにしておくことになります。

その他、顎がずれているため顎関節への負担が大きくなり顎関節症を引き起こしやすい口呼吸の傾向があります。

下顎が前方に出ていることで口唇が閉じにく、無意識に口呼吸になっていませんか?口呼吸は、乾燥による喉の炎症や風邪の引きやすさにつながります。

またしゃくれの方は低位舌になっている可能性が多く、睡眠時無呼吸症候群のリスクも上がります。

しゃくれについてよくある質問とその回答

-矯正治療の期間はどのくらいですか?

治療期間の目安としては下記の表の通りです。より具体的な治療期間を知りたい場合は、歯並びや骨格によって一人一人異なりますので、初診相談や精密検査をご利用ください。

また、矯正治療後は保定装置(リテーナー)を最低でも2年間使用していただきます。

-しゃくれが悪化することはありますか?

遺伝的なしゃくれの場合、思春期の成長ラストスパートなどで悪化する可能性があります。後天的な原因のしゃくれの場合は、生活習慣や癖の積み重ねがしゃくれの進行を助長します。

早期に原因を特定し、適切な治療や対策を講じることで、悪化を防ぐことが可能です。気になる場合は、歯科医や矯正専門医に相談することをおすすめします。