矯正治療で歯を削ることがあります。
主にマウスピース矯正装置(インビザラインなど)で治療する場合に多い処置ですが、ワイヤー矯正でも行われています。
このIPRの処置は定期的にマウスピースを交換していくだけ、と思われがちなマウスピース矯正装置による治療の中ではかなりのメインイベントです。
目次
そもそもIPRとは?
「Inter Proximal Reduction」の頭文字をとってIPR(アイピーアール)またはディスキングやストリッピングとも呼ばれます。
歯と歯の間のエナメル質をわずかに削り、歯を並べるスペースを作る処置です。

写真のように、歯が重なり合って凸凹の歯並びの歯を正しい位置に移動するためには、顎にスペースが必要です。
IPRはそのスペースを確保する目的で行います。
従来の矯正治療では、一部の歯を抜歯することでそのスペースを確保していました。マウスピース矯正装置(インビザライン)では、なるべく抜歯を行わない代わりに、歯と歯の間を削ることで隙間を作ります。


なぜ歯を削っても大丈夫なの?
IPRで削るのは、3層構造になっている歯の1番外側のエナメル質の部分です。
エナメル質は
- 人間の中で最も硬い組織
- 水晶と同じくらいの硬さがあると言われている
という特徴があります。
IPRでは、このエナメル質を必要最小限(0.2〜0.5mm程度)だけ調整します。「削る」というよりは「やする」感覚です。

虫歯でもないのに健康な歯を削るなんて、歯が薄くなったり、虫歯のリスクが高まるのでは…?と心配になるかもしれません。
ところが、むしろ、IPR後のエナメル質の歯面のほうが再石灰化を引き起こし、虫歯に対して強くなるという報告もあります。
どうやって削るの?_IPRの方法
歯間の隙間にIPR専用の糸鋸のような器具(下記写真)を入れて、前後にひいて隙間を作ります。

歯間の幅が広がってきたら最後は細いバーを使って隙間を作っていきます。
IPRは痛くないの?
結論から言うと、IPRで強い痛みを感じることはほとんどありません。
その理由は、エナメル質には神経が通っていないからです。エナメル質の最大の役割は、外部からの刺激(温度・力・細菌など)から歯髄(歯の神経)を守ること。
私たちは熱いものや冷たいものを食べても、歯が「火傷」することはありませんよね。それと同じように、エナメル質を削ること自体では痛みは起こらないのです。
IPRで違和感を感じるケース
①知覚過敏がある場合
もともと知覚過敏の症状がある方は、削っている最中に「しみる」と感じる方もいらっしゃいます。ただし、強い痛みが続くようなことはほとんどありません。
②歯ぐき付近の処置による刺激
IPRは歯と歯の間、歯ぐきに近い部分まで器具を入れるため、
- 少しチクっとする感覚
- わずかな出血
が起こることがあります。少しでも違和感や不快感を感じた場合は遠慮なく、歯科医師やスタッフにお伝えください。
③振動が不快に感じることがある
エナメル質は非常に硬いため、削る際に、
- 振動が響く
- 削る感覚が伝わる
ことで、不快に感じてしまう方もいらっしゃるかもしれません。
IPR後の知覚過敏への対策
IPRでは、痛みを感じないエナメル質のみを調整していますが、処置後に知覚過敏のような症状を感じる方がいらっしゃいます。
これは、削った際の刺激によって歯の神経が一時的に過敏な状態になり、冷たい飲み物や風などに対して「しみる」と感じやすくなるためと考えられています。
多くの場合、時間の経過とともに自然に落ち着いていきます。
IPR処置後のケアとして、当院では
- 知覚過敏の予防
- エナメル質の再石灰化の促進
を目的に、MIペーストの使用をおすすめしています。
MIペーストには、歯の表面をケアし、刺激を受けにくい状態へ導く働きが期待できます。
ご自宅でのセルフケアとして取り入れていただくことで、IPR後の不快感軽減につながります。

まとめ
IPRは治療期間短縮につながる大切な処置
マウスピース型矯正装置(インビザライン)では、口腔内スキャナー(iTero)で取得した歯型データをもとに、3Dシミュレーション(クリンチェック)を作成し、精密な治療計画を立てています。
このシミュレーションでは、
- 治療開始から何週目に
- どの歯のどの部分を
- どれくらい(何mm)IPRするか
といった情報が事前に細かく設定されています。
歯が正しい位置に並ぶために必要なスペースを正確に予測できるため、必要以上に歯を削ることなく、できるだけ抜歯を避けた矯正治療が可能になります。
その結果、歯の移動がスムーズに進み、治療期間の短縮につながるのがIPRの大きなメリットです。

IPR後に気をつけたいセルフケア
IPR処置後は、一時的に歯と歯の間に食べ物が挟まりやすくなることがあります。
挟まったまま放置すると、せっかく歯を動かすために作ったスペースに物理的な抵抗が生じ、歯の移動がスムーズに進まなくなる可能性があります。
食後は、
- デンタルフロス
- 歯間ブラシ
を使って、歯間の清掃を必ず行いましょう。
関連記事:【矯正中のフロスの使い方】プラスワンアイテムで完璧!マウスピースで矯正中の虫歯予防
IPRでできた隙間は自然に閉じていきます
正しくマウスピースを装着していれば、IPRでできた隙間は治療の進行とともに少しずつ閉じていき、
最終的にはコンタクトポイント(歯と歯の接触点)も回復します。
「隙間が空いたままにならないか心配…」という方も、どうぞご安心ください。
IPR処置の様子を動画で紹介
IPRの動画フルバージョンをご用意しています。
これからIPR処置を予定されている方は、
「どんなことをしているのか」「実際の流れ」を知る参考として、ぜひご覧ください。


