矯正治療においてワイヤーを曲げる意味は?

ワイヤー矯正では、歯毎に一つずつブラケットという小さな装置を接着し、そのブラケットに、形態を変形させてもすぐに元に戻る形状記憶のワイヤーを通します。

そのワイヤーに力を加えていくことで歯並びを整えていきます。

個人個人の歯並びに合わせてワイヤーを曲げることによって、その人に合った確実な矯正治療が可能になります。

そのため、矯正治療においてワイヤーを曲げることは非常に重要な技術となっています。曲げを作る場所や形などによりさまざまな歯の動きに対応できます。

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ワイヤーを曲げずに矯正治療はできない?

では、ワイヤーを曲げないと矯正治療はできないのでしょうか?

ワイヤー矯正で用いるブラケットは、大きく分けてスタンダードエッジワイズ用ブラケットストレートワイヤー用ブラケットの2種類が存在します。

Aのスタンダードエッジワイズ用ブラケットはワイヤーにさまざまな“曲げ”を組み込むことで個々の歯や歯列に合わせ、三次元的に歯を動かしていく治療法に用いるブラケットです。

自動車でいうと、マニュアル車のようなものです。ギアやクラッチを運転手が組み替えることで自動車がスムースに走っていきます。

一方、Bのストレート用ブラケットはブラケットのスロット(溝)自体に傾きや角度などの情報が組み込まれており、ワイヤーを曲げなくても良いように工夫されています。

こちらは自動車でいうと、オートマ車のようなものです。アクセルを踏むだけでスムースに走行します。

ただし、ストレートワイヤー用のブラケットに組み込まれた情報は、個人個人に合わせたものではなく規格化されたものであるため、最終的に個人個人に相応しい歯列の状態に並ばない場合があります。

その場合は、結局スタンダードエッジワイズと同じくワイヤーに三次元的な曲げを入れ、調節していく必要があります。

ワイヤーを曲げる治療と曲げない治療

ワイヤーを曲げない治療もあります。歯を抜いて矯正治療を行う場合、ワイヤーを曲げて抜いた歯の隙間を閉じる方法と、ワイヤーを曲げないで隙間歯を閉じる方法の2種類が存在します。

前者は、ループメカニクスといいます。

ループメカニクスは、ワイヤーを曲げて“ワイヤーが元に戻ろうとする力”を利用し、歯も一緒に引っ張ることを目的として行います。

後者は、スライディングメカニクスといいます。

ゴムの力でスロット内のワイヤーをスライドさせることによって、抜いた歯の隙間を閉じていきます。

スライディングメカニクス(青い部分がゴム)

ワイヤーのどの部分を曲げるの?

ワイヤーを曲げる必要があるスタンダードエッジワイズ法では、歯のでこぼこや傾きに応じて複雑な曲げを組み込んで三次元的に調整していきます。

曲げる場所は目的に応じて変わりますが、例えば奥歯が前に行かないようストッパーの役割を果たす目的でワイヤーに曲げを入れる時は、奥歯の手前側に曲げを組み込みます。

こうすることで、奥歯が前に動かないよう食い止めることができます。

また、前歯を後ろに移動させたい時は前歯と犬歯の間に曲げを組み込みます。曲げたワイヤーの閉じようとする力で歯は少しずつ回転し、さらに後方へ移動していきます。

ワイヤーを曲げるのは難しい?

ワイヤーを曲げること自体は難しくはありませんが、その曲げを矯正治療に反映させ、治療結果を出すと考えると難しくなります。

患者さんの口腔内を観察し、歯の形状や傾き、高さなどを読み取る力に加え、ワイヤーを曲げる技術を習得することは容易ではありません。

そのためワイヤーを曲げるスタンダードエッジ法を用いている歯科医院は多くはなく、誰でもできるというわけではありません。

この技術の習熟には長い訓練やセンスが必要とされており、実際にスタンダードエッジワイズテクニックを採用している歯科医師はほんの一握りと言われています。

では、ワイヤーを曲げる必要性がほとんどない、ストレートワイヤー法用のブラケットを用いる歯科医師やスライディング法を用いる歯科医師は技術が劣っているのか、と言われたらそうではありません。

ストレートワイヤー法は前述しましたが、自動車でいうところのオートマ車です。現在、日本国内の自動車は約98%がオートマ車であり、マニュアルの普及は2%に満たないと言われています。

矯正治療法も結果が同じであれば、多くの歯科医師が便利な方法を選択することはこれと同様です。

とはいえ、矯正専門医であれば、ストレートワイヤー法でスライディング法を使用していてもワイヤーを日常的にベンドすることが可能です。そして、マニュアル車を運転できる運転手は、オートマ車も難なく運転できます。

最後に

ワイヤー矯正において、“曲げる”技術は非常に重要な役割を果たしています。

ワイヤー矯正には目立ちやすい、歯磨きがしにくい、などのデメリットもありますが、“歯並びを治すこと”を目的とした矯正治療においては優れた治療法と言えます。

現在は目立たない透明なマウスピース矯正治療なども一般的になってきていますが、ワイヤーを曲げることによって一つ一つの歯にアプローチしていくことのできるワイヤー矯正は適応症例も広く、患者さんの細かい要望にも対応しやすいです。

審美性や、歯磨きの煩わしさよりも“治療結果”を重要視する方には熟練した技術によってフルオーダーメイドの治療が行えるワイヤー矯正を選択するのが良いかもしれません。