こんにちは。大宮SHIN矯正歯科院長の矢野です。
矯正治療で、歯を削ることがあります。主にマウスピース型矯正装置(インビザライン)の方に多い処置ですが、ワイヤー矯正でも行います。「Inter Proximal Reduction」の頭文字をとってIPR(アイピーアール)またはディスキングやストリッピングとも呼ばれます。
このIPRの処置は、定期的にマウスピースを交換していくだけ、と思われがちなマウスピース型矯正装置(インビザライン)の治療の中で、かなりのメインイベントです。
目次
なぜ歯を削るの?【IPRの目的】
下記のような歯並びの方が、歯が正しい位置に並ぶためのスペースを確保する目的で行います。従来の矯正治療では、一部の歯を抜歯することでそのスペースを確保していました。マウスピース型矯正装置(インビザライン) ではなるべく抜歯を行わない代わりに、歯と歯の間を削ることで隙間を作ります。

◆凸凹の歯並び(叢生)

◆出っ歯の歯並び(前突)

◆受け口

〈IPRをしない歯列矯正のイメージ〉
削る量はどれくらい?【IPRの安全性】
IPRで削るのは、3層構造になっている歯の1番外側のエナメル質の部分です。エナメル質の厚みが2~3ミリなのに対して、IPRの量は最大0.25ミリ。削るというよりは「やする」感覚です。
虫歯でもないのに健康な歯を削るなんて、歯が薄くなったり、虫歯のリスクが高まるのでは…?と心配になるかもしれませんが、むしろ、IPR後のエナメル質の歯面のほうが再石灰化を引き起こし、虫歯に対して強くなるという報告もあります。
どうやって削るの?【IPRの方法】
歯間の隙間にIPR専用の糸鋸のような器具(下記写真)を入れて、前後にひいて隙間を作ります。

隙間の幅に合わせてサイズがあります。左に向かって幅が広くなります
歯間の幅が広がってきたら最後は細いバーを使って隙間を作っていきます。
IPRって痛くないの?
エナメル質自体は神経が通っていないので削っても痛みを感じることはありません。熱いものを飲食しても歯が火傷することはありませんよね。エナメル質は歯に対する様々な外部刺激から歯髄(歯の神経が通っている部分)を守るということが最大の役割なのです。
削るときの痛みはありませんが、もともと知覚過敏の症状があると、削っている最中にしみると感じる方もいらっしゃいます。また、歯肉ギリギリまで器具を入れるので、少し出血することもあります。少しでも違和感や不快感を感じた場合は遠慮なくお知らせください。
しかし、エナメル質は人間の体の中で最も硬い組織(水晶と同じくらいの硬さがあると言われています)で、削る際の振動が響くので、それが不快に感じてしまう方もいらっしゃるかもしれません。
治療期間が短くなる!?【IPRのメリット】
マウスピース型矯正装置(インビザライン)は、iTeloでスキャンした歯型のデータを元に、精密な3Dシミュレーション=クリンチェックによって、治療計画をたてます。シミュレーション画像には、治療開始から何週間目にどこの位置を何ミリ削るか、という情報が記載されています。

クリンチェック画像。数字がIPRする場所と削る量
歯が歯列の正しい位置に並ぶためには、どのくらいのスペースが必要か、最適な量が予測できるようになり、できるだけ歯を抜かない矯正治療が可能になりました。その結果、適切なIPRは治療期間の短縮に繋がります。
植物や農作物を育てるときに、「間引き」という作業があります。増えすぎてしまった苗を取り除き、風通しや日当たりを良くして植物が育ちやすくするために環境を整える作業です。歯列矯正治療におけるIPRは健康な歯を保つための「間引き」なのです。
歯がしみる?【IPR処置後の注意点】
痛みを感じないエナメル質しか削っていないはずなのに、IPRの処置後には知覚過敏の症状を感じる方が多くいらっしゃいます。これは、削った刺激で神経が過敏になってしまい「しみる」と感じやすくなると言われています。
その対策として、当院ではIPR処置をした患者さまには知覚過敏防止と、歯の再石灰化を促進するためにMIペーストの使用をおすすめしています。
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もうひとつ、IPR処置後は歯間に食べ物が挟まりやすくなります。挟まった食べ物をそのままにしておくと、せっかく歯を動かすために作ったスペースなのに、移動できなくなってしまいます。食後はフロスや歯間ブラシを使って挟まった食べ物は必ず取り除きましょう。
正しくマウスピースを使用していれば、IPRでできた隙間は次第に閉じてコンタクトポイント(歯と歯の接触点)も復活しますので安心してくださいね!
IPRの動画フルバージョンはこちら↓↓↓これからIPR処置を予定している方へ、どんなことをしているのか参考にしていただけると幸いです。