歯の矯正治療において、多くの方が不安を感じることのひとつに「痛み」があります。そこで、矯正歯科で麻酔が必要になるシチュエーションについてお話ししたいと思います。

麻酔とは、主に手術中の痛みやストレスから患者さんを守るために、意識や感覚をなくし、手術が安全に行えるようにするものです。

歯の矯正治療では、どのような場面で麻酔が使われるのか、そしてその効果や種類について詳しくご紹介します。

歯医者で麻酔を打つときはどんなとき?

そもそも、一般的に歯科医が麻酔を打つのはどんなときでしょうか

– 歯を抜くとき

親知らずの抜歯など、歯を抜く場合に使用されます。

-むし歯を治療するとき

むし歯の部分を削る際に痛みを和らげるために麻酔を行います。

-歯の根管治療

歯の内部の感染を治療する際、深い部分まで処置が及ぶため、痛みを軽減するために麻酔が使用されます。

-歯周病治療

歯肉や歯槽骨の治療時に、痛みを和らげるために麻酔が必要となることがあります。

-インプラントの埋入

インプラントを顎骨に埋め込む外科的処置の際に、局所麻酔や場合によっては全身麻酔が使用されます。

-矯正治療

矯正装置の取り付けや調整自体では麻酔はほとんど使用されませんが、矯正の一環として歯の抜歯や外科的処置が必要な場合には麻酔が行われます。

-外科的処置

歯肉の切開、膿瘍の排膿、口腔内の小手術など、痛みを伴う外科的処置の際に麻酔が使用されます。

これらの状況では、患者さまの快適さと治療のスムーズな進行を確保するために、状態や処置の内容に応じて、局所麻酔、表面麻酔、静脈内鎮静法、全身麻酔など、歯科医師は適切な麻酔を選択して使用します。

矯正歯科(大宮SHIN矯正歯科)の場合

当院は矯正歯科のため、麻酔を利用する機会は少ないですが、次のような場合に使用します。

矯正治療のために歯を抜くとき

矯正治療では、便宜抜歯(べんぎばっし)と言って、歯並びやかみ合わせを改善するために健康な歯を抜くことがあります。

矯正用アンカースクリューを使用するとき

抜歯した隙間を閉じる際、歯を大きく後方に移動させるための力点が必要となります。

歯科矯正用アンカースクリューとは、その際利用するネジのことを言います。

小さなネジを歯茎に埋め込み、そこを支点にゴムをかけて、ゴムの力を利用して歯をスムーズにひっぱります。矯正用インプラントと呼ばれることもあります。

装置が歯肉に食い込んでしまったとき

それほど頻度のあることではありませんが、装置に慣れないときや、装置が歯肉に食い込むなどで違和感や痛みを感じることがあります。

あまりに痛みを感じる場合は、装置を外す時に必要に応じて麻酔を使うこともあります。

麻酔の種類

矯正歯科で使用される麻酔には、以下のような種類があります。

-局所麻酔

リドカイン(Lidocaine): 最も一般的に使用される局所麻酔薬で、速やかに効き始め、約1〜2時間持続します。
・アーティカイン(Articaine): 骨の中への浸透が良く、特に抜歯などの外科的処置に適しています。
・メピバカイン(Mepivacaine): アレルギーのリスクが低く、持続時間がリドカインよりもやや長いです。

-表面麻酔

ベンゾカイン(Benzocaine): ジェルやスプレーの形で使用され、注射をする前に針の痛みを軽減するために使われます。

-笑気吸入鎮静法(Nitrous Oxide/Oxygen Sedation)

通称「笑気ガス」とも呼ばれ、不安を和らげリラックスさせるために使用されます。患者さまは意識があり、麻酔の効果が切れるのも早いです。

-静脈内鎮静法(IV Sedation)

静脈に直接麻酔薬を投与し、患者さまを半覚醒状態に保ちます。意識はありますが、処置中の記憶はほとんど残りません。歯科外科手術などで用いられます。

-全身麻酔(General Anesthesia)

患者さまの意識を完全に失わせる麻酔方法で、大掛かりな手術や特定の条件下で使用されます。歯列矯正では骨切りなど外科手術を伴う処置に使用されるます。

一般的な歯列矯正では3,笑気吸入鎮静法〜5.全身麻酔を利用することはほとんどありません。

当院では、使用する麻酔は1. 局所麻酔と2. 表面麻酔です。過去の麻酔の利用経験により、ご自身の効果について不安がある場合は、事前に歯科医師に相談してください。

麻酔が切れるまでの時間は?

表面麻酔の場合はおよそ10分ほど、局所麻酔の場合は2-3時間と個人差があります。個人の麻酔の効きやすさや年齢なども関係しますが、治療中~治療直後に麻酔が切れることはほとんどありません。

食事についての注意点

麻酔が効いている間は、食事には注意が必要です。

痛みを感じる機能というのは、身体を守るための重要な感知能力の一つです。その機能が麻酔で切れているということは、口の中が本来ならやけどをしたり傷ついたりしてもわからない状態である、ということです。

可能であれば、麻酔が効いている間は、できるだけ食事を控え、飲み物もやけどを避けるために常温のものを選びましょう。

やむを得ず食事をする場合は、ヨーグルト、プリン、スープなどのやわらかい食べ物を選び、麻酔が効いていない反対側の歯で噛むように心がけ、ゆっくりと食べることが大切です。

麻酔が完全に切れるまでの時間を考慮し、注意を払いながら食事をすることで、口の中の怪我を防ぐことができます。

麻酔を打つときの注意事項

歯科で麻酔を打つ時にはいくつか気をつけることがあります。

これらの注意事項を守ることで、歯科治療を安全に受けることができ、麻酔の効果を最大限に活用することができます。

-麻酔を打つ前

1. 医師への情報提供
-アレルギー歴や現在の服用薬、既往症について歯科医師に正確に伝えましょう。特に麻酔薬に対するアレルギーや心臓病、糖尿病などの持病がある場合は重要です。

2. 飲食について
-麻酔を受ける前に食事を控えるよう指示されることがあります。特に全身麻酔や静脈内鎮静法を受ける場合は、施術前に数時間飲食を避ける必要があります。

3. 体調管理
体調が悪いと感じる場合は、予約を変更するか歯科医師に相談しましょう。風邪や感染症にかかっているときは、麻酔の効果や治療の安全性に影響を及ぼすことがあります。

-麻酔中の注意事項

リラックスする
– 緊張せずにリラックスすることが重要です。緊張が強いと、麻酔の効きが悪くなることがあります。深呼吸をして落ち着くよう心がけましょう。歯科医師やスタッフの指示に従い、適切な姿勢を保ちましょう。

麻酔を打った後

1. 感覚が戻るまで注意
– 麻酔が切れるまで、口の中を噛んで傷つけないように注意しましょう。

2. 飲食の制限
– 麻酔後数時間は食事や飲み物を控えるよう指示されることがあります。特に硬いものや熱いもの、辛いものは避けましょう。感覚が鈍い間は、食事や熱い飲み物を避けることが大切です。

3. 活動の制限
– 麻酔が完全に切れるまで運転や危険な作業を避けるようにしましょう。完全に麻酔から回復するまで休息が必要です。後に大事な予定は入れない方がよいでしょう。運動やサウナもNGです。

4. 痛みや腫れへの対処
– 麻酔が切れた後、痛みや腫れがある場合は、歯科医師から指示された方法で対処しましょう。それでも異常を感じる場合は、すぐに歯科医師に連絡してください。

最後に

矯正歯科で麻酔を使うシチュエーションについてご紹介しました。これから矯正治療を検討している方や、治療中の方にとって、安心して治療を受けるための参考になれば幸いです。

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