最近、ネットニュースで「大人の乳歯」の記事を見かけました。
実は子供の時に抜けてしまうはずの乳歯が、大人になってもそのまま残っている人は意外と多く10人に1人の割合だということです。(日本小児歯科学界の2011年3月発表の調査結果より)
(ちなみに蛇足ですが、このニュースのサムネイルの丸く囲ってある歯は乳歯ではなく、矮小歯(わいしょうし)です…)
当院でも、「大人の乳歯」がある患者さまから、歯の矯正ができるのかご相談をいただくことがあります。
先に結論を出してしまいますが「矯正はできます」その理由は後程ご説明いたします。
では、なぜ大人になっても乳歯が生えていることがあるのでしょうか。
目次
乳歯はいつまでに生え変わる?
乳歯は個人差はありますが、一般的に6歳から12歳の間に生え変わります。
発育の過程で顎が育っていく中、乳歯の歯根が顎や永久歯の栄養として吸収されていきます。
根っこのなくなった乳歯は土台がなくなるため、ぐらぐらと動いて抜けてしまい、そのあとに永久歯(大人の歯)が生えてくるのです。
乳歯が抜けた際には成長を喜び、お祝いをする風習が世界各地にあるように、乳歯は一般には子供時代だけの歯というイメージが強くあります。
大人なのに乳歯が生えているのはなぜ?
しかしながら、先に記載した通り、意外と大人になっても乳歯が生えている人はおり、近年増える傾向にあるともいわれています。
乳歯が一般的な時期に抜けず、歯列に残っている原因としては、以下の内容が挙げられます。
-先天性欠如歯(けっそんし)
生まれつき、乳歯の下にあるはずの永久歯が存在しないことを先天性欠如歯と言います。
本来、永久歯が生える際に、乳歯の歯根が溶かされて吸収され自然に抜けるのが一般的ですが、この場合、乳歯の歯根が吸収されないため、乳歯がそのまま残ります。
日本小児歯科学会の調査によれば、上顎(約.4.37%)より下顎(約7.58%)の発生頻度が高く、部位的には左右共に第二小臼歯(5番)と側切歯(2番)に多いとされています。
この先天性欠如歯の明確な原因は、今のところわかっていません。
-乳歯が歯茎に沈む
歯の生え変わりで歯根が吸収された際に、乳歯が歯茎に食い込んだり、沈んでしまい、抜けずに残っていることがあります。
-癒合歯(ゆごうし)
隣あった2本の歯が、歯が形成される時期にくっついて1本になった歯のことを言います。乳歯にも永久歯にもみられますが、乳歯が結合したものの方が多くみられます。
2本の乳歯が癒合していると「乳歯は1本」とみなされて、その下にある永久歯が生える時に、癒合歯の歯根部分がうまく吸収されず、抜けずにそのまま残っていることがあります。
大人乳歯があると歯並びに影響する?
大人になっても乳歯が残っている場合、歯並びに影響を与える可能性があります。
乳歯は永久歯と比べると小さいため、すきっ歯になる可能性があります。
また、歯の生え変わり中に乳歯が残っていると、周囲の永久歯が乳歯の位置に合わせて移動しようとすることがあります。このため、歯列全体が歪んだり、歯並びが乱れたりすることがあります。
歯並び以外にも大人乳歯は、将来的に歯の健康や機能に問題を引き起こす可能性があるため注意が必要です。
-かみ合わせの問題
乳歯が残っていると、正常なかみ合わせができず、特に、上下の歯がかみ合わない場合、噛む力が均等に分散されず、歯や顎の問題を引き起こす可能性があります。
-口内環境の影響
乳歯は、永久歯に比べエナメル質が弱いので虫歯になりやすく、また一度虫歯になると進行が早く、治療して保存することも難しい歯です。
そもそも、乳歯は永久歯が生えるまでの、子供時代の短い期間、子供の小さい顎に合わせて生える歯です。
そのため、乳歯自体が歯根が短く、大人の歯(永久歯)のように、長期間使えるようにできておらず、脆く壊れやすいものです。
多くの方は老齢前に乳歯が虫歯になるなどして抜けてしまいますが、可能であるならば、口内トラブルが起こる前に、かかりつけの歯科医院にて処置を行ってもらうことをお勧めします。
乳歯が残っていても歯列矯正できる?
さて、乳歯が残っていても歯列矯正はできるのでしょうか。先にお伝えした通り、「矯正はできます」
大人乳歯があっても、歯周病や歯肉の状態が問題なく口内環境が健康であれば、歯列矯正が可能です。
-乳歯を抜いて歯列矯正
こちらの症例は、下顎の左右の第二乳臼歯(写真赤丸)を抜歯して、ワイヤー矯正とマウスピース型矯正装置(インビザライン)を併用して治療を行なっています。
- 主訴:ガタガタと八重歯が気になる。かみ合わせが良くない
- 診断名:叢生(そうせい)
- 初診時年齢:26歳・女性
- 治療装置:マウスピース矯正装置(インビザライン)・ワイヤー
- 抜歯箇所:下顎左右E
- 治療期間:現在治療中
- リスクと副作用:痛み、歯根吸収、歯肉退縮、虫歯、後戻り
- 費用:946,000 円(税込)
-乳歯を抜かずに歯列矯正
この患者様は、上下左右のE(第二乳臼歯)が残っていました。永久歯が下に埋まっていたので、上顎の左側の乳歯(写真青丸)のみ抜歯してマウスピース型矯正装置(インビザライン)を用いて治療しました。
- 主訴:上下の歯のすき間が気になる、親族に指摘された。
- 診断名:叢生(そうせい)
- 初診時年齢:16歳・男性
- 治療装置:マウスピース矯正装置(インビザライン)
- 抜歯箇所:上顎左側E
- 治療期間・通院回数:3年6ヶ月・28回
- リスクと副作用:痛み、歯根吸収、歯肉退縮、虫歯、後戻り
- 費用:957,000円(税込)
乳歯の状態、上下のかみ合わせのバランス、患者様のご希望を踏まえ、乳歯を抜いて治療することもあれば、抜かずに治療する場合もあります。
ただし、乳歯は歯根が短く、永久歯と比較すると割と早い段階で抜けてしまう可能性が高い歯です。
抜歯に抵抗があり、非抜歯で歯列矯正の治療を行なったけれどやっぱり抜けばよかったと後悔する方もいらっしゃいます。詳しくはこちらのブログをご覧ください。
大人乳歯が生えていて歯列矯正を考えている方は、歯並びによって治療方法が異なりますので歯科医院で直接相談することをお勧めします。